あがり症克服体験談|結婚式スピーチを成功させた40代男性のトラウマ解消

結婚式スピーチを成功させた40代男性

高校時代の失敗がトラウマとなり、20年以上も「あがり」の恐怖に縛られてきた40代のI.T.さん。

社会的立場から「いい歳して恥をかけない」という強い重圧の中、部下の結婚式での祝辞という最大の試練に直面します。

人生を変えるべく決意した電話による6回の心理療法で、脳に刻まれた負の記憶をどう塗り替え、本番でアドリブまで成功させたのか。

深刻な悩みを抱える管理職層へ、希望と科学的な解決策を提示する克服の記録です。

あがり症の始まりは高校3年生の頃から

教室で発表している高校生

“あがり”を最初に感じたのは高校3年の時の事でした 。最初の自己紹介でそれまでにない“あがり”を感じ、声がうわずってしまいました 。男女共学の高校でしたが、高校2年までは男子クラスに在籍し、3年から男女共学クラスに変わったのも一因かも知れません 。

そこから先はひどくなる一方でした 。当時の担任の先生が事あるごとにスピーチを強要される方で、苦痛の日々が続きました 。ひどい時はたった2, 3行言うのもやっとで、唇は震え、声はうわずり、惨めな思いをしていました 。さすがにまわりの生徒も気づいており、意地の悪い同級生はわざとプレッシャーかけてくる者もいました 。

転職後の苦境・・・毎朝交代のスピーチ

スピーチする男性

卒業後、大学進学、就職とスピーチする機会は若干ありましたが、少人数の前でのスピーチであったため、それ程負担になることはありませんでした 。しかし転職を機にまたその苦境に立たされる日々がやってきました 。

1フロア70名程のスタッフがいる会社で毎朝交代でスピーチをするのです 。

最初のスピーチはたった1行程のあいさつをするのがやっとでした 。殆ど半べそ状態であったのを覚えています 。
運よくその後すぐに転勤となりそのような機会はなくなりましたが、この件はその後もずっとトラウマのように私の脳裏に残っていました 。

それから10数年、新しい職場に移ってからも小規模の場でのスピーチはありましたがよく知っている人たちばかりの前でしたので、慣れも手伝いそこまでの“あがり”はありませんでした 。

結婚式の祝辞スピーチを引き受けた

そして今回、部下の結婚式での祝辞という一番苦手な役割が回ってきたのです 。最初は拒否も考えましたが、上司からの説得もあり引き受ける事となりました 。

こうなったらこれを機会に今までのトラウマも払しょくし、人生観までも変えてやろう、立ち向かって行こう、そう私は考え相談しました 。

話が長くなりましたが、年齢を重ねても、ある程度の職場の地位にいる方でも同様の悩みの方は多いと思います 。はたから見れば「何でその位、いい歳して」といわれそうですが、本人にとっては意外と悩みは深刻なのです 。寧ろ部下、後輩を多く持っている人程恥をかきたくないというプレッシャーから事態は深刻なのかもしれません 。

あがり症解消の心理療法を受けた

電話をしている男性

当初、面談を希望しましたが、私が遠方という事もあり、電話でのセラピーをすすめられました 。

正直電話で解決できるものなのだろうかという不安はありました 。

(注・田中:新型コロナの流行前は電話でセッションをしていました)

6回のセッションでしたが、回数を重ねていくごとにその不安は消え、寧ろ私のような人間には直接対面より効果的ではと思うようになってきました 。

様々な心理療法を施していただきました 。先生をとにかく信じてセラピーを信じて、1回1時間程でしたが集中しました 。詳細は省略しますが、私にとって密度の濃い内容であったと思います 。

そして本番、結婚式でのスピーチ

結婚披露宴でスピーチする男性

そして本番、結婚式でのスピーチです 。スピーチ直前まであまり緊張せず周りと歓談している自分がいました 。

しかしさすがにマイクの前に立つと緊張してきました 。
ただ声ははっきりと出ていました 。唇の震えもありません 。
ほんの少しアドリブも入れました(ウケました) 。
そして何とか乗り切りました 。

ただ正直その時点では100%の満足はしていませんでした 。ドキドキしていたのは事実ですし、手が少し震えている感じもしました 。
皆はどう見てたんだろう、帰宅後は少しうつ的な気持ちにさえなりました 。

職場の皆から「良いスピーチ」と言われた!

同僚から褒められている男性

そして翌日、職場で皆から言われた感想で全てが吹っ切れました 。

「声が通ってとても良かったですよ」

「すごく感動的なスピーチでした」

「〇〇さんて緊張とかしないんですね」等々 。

すぐ間近で見ていた人には緊張がやや伝わっていたようですが、殆どが良いスピーチと言って下さいました 。

早速夜に先生に報告し喜びを分かち合いました 。

一人で悩まず専門家に相談して!

今後はこのようなスピーチの回数が増えてくると思います 。確かに緊張が完全になくなるとは思いません 。
しかし今では不安も苦痛も感じません 。寧ろステップアップしていきそうな自分を想像してうれしい気分にさえなります 。今回の成功体験が脳裏に刻み込まれた感じもします 。

先生にも電話でお話ししましたが、大げさに言うと少し人間的に成長、ステップアップした出来事ではなかったかなと思います 。

“あがり”で悩まれている方は多いと思います 。一人では悩まずに専門家に相談してみる事をオススメします 。何かまわし者の様な事を言っていますが、私の正直な感想です 。

長々となりましたが、色々ありがとうございました 。感謝します 。

また相談する機会があるかも知れませんが、その節はよろしくお願いします 。

(40代男性 I.Tさん)


あがり症解消セラピストからコメント

あがり症解消セラピスト 田中耕一郎

あがり症解消セラピスト 田中耕一郎

I.T.さん、まずは部下の方の結婚式でのスピーチ、本当にお疲れ様でした!

そして、何より高校時代から二十数年間にわたって抱え続けてきた「あがり」という名の重い荷物を、ついにご自身の力で下ろすことができたこと、私も自分のことのように感銘を受けております。

心理療法家として、I.T.さんが歩んでこられた道のりと、今回の劇的な変化について、専門的な視点からいくつかコメントをさせていただきます。

「あがり」の原体験とトラウマの形成

I.T.さんのあがり症の原点は、高校3年生という非常に多感な時期の「自己紹介」「スピーチ」にありました。
心理学的に、思春期は「他者からどう見られているか」という公的自己意識が急激に高まる時期です。そこで感じた「声のうわずり」という小さな失敗が、当時の担任の先生による「強要されたスピーチ」という過剰な負荷によって、脳に「人前=恐怖・屈辱」という強固なトラウマとして刻み込まれてしまったと考えます。

Hackmann, A., Clark, D. M., & McManus, F. (2000)は、社会不安を抱える人の多くは、過去の屈辱的な体験を鮮明な「イメージ」として脳に保持しており、それが現在の不安を誘発していると述べています。

I.T.さんも「自己紹介」と「スピーチ」のトラウマを鮮明なイメージとして持ち続けていたことでしょう。

意地の悪い同級生からのプレッシャーも重なり、I.T.さんの神経系は「人前」を「命の危険」と同等に認識するようになっていたはずです。これを数十年間、お一人で抱え、社会生活を送ってこられたこと自体、I.T.さんの並外れた精神的強さを物語っています。

オンライン(遠隔)セラピーの有効性

オンラインのセラピーの効果は、対面式のセラピーと比較して、同等であることがわかっています。

Hedman et al. (2011)は、SAD(社会不安症)患者を対象に、「インターネットを介したCBT(認知行動療法)(ICBT)」と、従来から最も効果的とされる「グループ対面CBT(CBGT)」を直接比較しました。

治療終了直後、および6ヶ月後の追跡調査の両方において、ICBT群は対面グループ群と同等の症状改善を示しました。

この研究でSADにおいては、セラピストと物理的に「対面」しなくても、正しい認知再構成の手順を踏めば、脳の扁桃体(不安のセンター)の過敏性を十分に抑えられることが証明されました。

SADの核心的な問題は、他者からどう見られているかを過剰に気にする「公的自己意識」の高さです(Clark & Wells, 1995)。

対面セラピーでは、皮肉にも「セラピストにどう思われているか」「自分の緊張がバレていないか」という点に注意が向いてしまい、セラピーの内容に集中できないことがあります。また「恥をかきたくない」という思いから、本音を隠したり、良い人を演じたり(安全確保行動)することもあります。

一方、オンラインのセラピーでは、視覚的なプレッシャーが軽減されるため、患者が自分自身の内面的な思考や感情を言語化する際の「心理的安全(Psychological Safety)」が格段に高まることが示唆されています。

I.T.さんが感じた「対面より効果的」という感覚は、このプレッシャーからの解放がもたらした結果でしょう。

参考・出典URL

Hackmann, A., et al. (2000). Recurrent images and early memories in social phobia. Behaviour Research and Therapy, 38(6), 601-610.
https://pubmed.ncbi.nlm.nih.gov/10846808/

Hedman, E., et al. (2011). Internet-Based Cognitive Behavior Therapy vs. Cognitive Behavioral Group Therapy for Social Anxiety Disorder: A Randomized Controlled Trial. Archives of General Psychiatry, 68(10), 1012-1020.
https://journals.plos.org/plosone/article?id=10.1371/journal.pone.0018001

Clark, D. M., & Wells, A. (1995). A cognitive model of social phobia. In R. G. Heimberg, M. R. Liebowitz, D. A. Hope, & F. R. Schneier (Eds.), Social phobia: Diagnosis, assessment, and treatment (pp. 69–93). The Guilford Press.
https://cir.nii.ac.jp/crid/1361699995663572096


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